夕方の4時。

分娩室へ移動、妻は分娩台に。体を
横たえ、足を開き気味に伸ばす体勢。
下腹部から膝にかけてバスタオルを
かけてもらっている。

点滴は継続、陣痛室とは違う機器が
音と波形を出し続けている。

今日一日関わってくれていた助産師
さん二人が、妻の足元の側から声を
かけつつ色々と準備してくれている。

私の立つ位置は妻の横、左肩の辺り。
手には、ストローキャップをつけた
スポーツドリンクとゼリー飲料。

そして、産まれてこようとしている
さーちゃん。分娩室にはその5人!

先生の言ってた「ここから長い」は、
分娩室で繰り広げられる時間なのか。
陣痛室での長い時間を想像していた。

私は妻に何か声をかけてあげたいと
…飲み物を置き妻の肩をさすって…
これからどれだけかかるのかどんな
激しい痛みが訪れるのか、何一つと
してわかっていないけれど…。
「もうすぐ会えるよ」「頑張ろう」
言えたのはそれくらい。でも本当に
それしか出ない、自分の中には妻と
子が無事にいてくれという願いだけ。

妻はもう言葉が消え入るようにしか
出せない、私の目を見て頷いている。

「張りがきたら、深く吸ってはいて」

「それから大きく吸って、ここ!の
 タイミングで、息をぐっと止めて
 いきんで下さい、次きたらやって
 みましょう」

「はい…あ…きます」

「息を止める時は、ぐっと体を持ち
 あげて、私の方を見て下さいね!」

「はい吸ってーはいてーーもう1回、
 吸ってーーはい止めて!」

上体をぐぐと持ち上げる妻に、思わ
ず手を差し伸べる。支えていて良い
らしい。よし、今度は背中を支える。

妻がいきみ方を教えてもらっている。
上体を持ちあげおなかの辺りを見る。
手元のレバーで体を引き寄せる様に。
息は止め、おなかに力を入れ苦しく
なったらはきだしてよい。ピークを
過ぎたら体勢を戻し、即力を抜いて
リラックス!よし、わかってきたね。

何度かいきみを繰り返す。

助産師さんも毎回、すべき事をその
タイミングで教えてくれる。いきみ
方が上手だと褒めてくれている。

妻の名を呼ぶと、また目が合う。

「いきむの、上手だって。 良いよ」

その頃には先生も到着、途中助産師
さんが全交代しかなり不安に駆られ
たが、数分後に戻ってきてくれてホッ。


30分くらい…していたのでしょうか。
妻は息が上がりつつながら、いきみ
のタイミングで力を振り絞り続けて
いる。がんばれ、がんばれ…

先生が状況を簡潔に説明してくれる。
「産道は確保できていたんですけど
 ねー。しっかりと開いてますよー。
 順調すぎて、赤ちゃんの進みが付
 いてこれていなかったんですねー。
 けどもう、そこまできてるんでー。
 頭が見えてますよー。」
何かちょっと力を抜けさせてくれる
先生だ。


合間、アコーディオンカーテンから
廊下に顔を出し、分娩室前の椅子で
待っているおとうさんおかあさんと
短く言葉を交わす。

分娩室へ入る直前に、私達家族用の
LINEグループに「分娩室に入ります」
とだけ飛ばしていたメッセージ。それに
応えて、母から 「無事に生まれます
ように」そして「命を産む痛みです。
もう少しです頑張って!!」と。

そうだな、命を産む痛みの最高潮を、
妻はその身に迎えようとしてるんだ。


人が増え始める。先生も3人ほど…
「生まれた赤ちゃんを見せて貰いに
 小児科の先生も数名こられますの
 で」と告げられる。わかりました。

助産師さんも、何だか夜の部の人も
出勤されてみんな合流した、的な…
どなたが何の役割だかわからなかい
けれどどんどん人が増え、最終的に
分娩室に11~12人は居ました。+妻、
私、さーちゃん。
15人いる!

いよいよなのか、慌ただしさが増す。
ただ、どこかが引っ掛かってて出に
くい状態のようで、「少し切らせて
貰います」どこを切るのかを先生が
手短に打ち合わせている。

「さあもう少しですよー」いきむ。

「さっきのよかったですよー。もう
 産まれちゃうかって思いましたー」

産まれちゃうかって先生!

「さあもう産まれますよー」

「は…はい…!」と妻。

「ご主人さん、そんな背中押さずに
 大丈夫、出にくくなっちゃいます 」

「は、はいっ!」と私。

途中、妻の足は足用の台に乗せられ
体勢はおそらく最終局面。もう少し
と教えて貰ったおかげで、妻は力を
使い切る覚悟が出来たかもしれない。

私は向かいの壁にかかってる時計を
見て、「5時になったな」と思った。

「…きます…」次の波がきたようだ。
妻は顔を紅潮させ、両手を握り締め、
体をわななかせ…背中を支える私の
両手に伝わる。


ぉぎゃー、あー!


さーちゃんの全身が、いきなり目に
飛び込んでくる。助産師さんに持ち
上げられて、宙に飛ぶように現れて、
そして専用のベッドへとふわーっと
浮いていった。

うまれた! 泣いてる! 動いてる!

喜び、安堵…妻と顔を見合わせて…
「ありがとう」と伝えました。


こうして、さーちゃんの生が、この
外の世界で始まります。ありがとう、
生まれてきてくれてありがとう !!




180218
この絵は、立体エコーを見せてもら
った時に映し出されたさーちゃんの
手です。不安の中、紹介状を携えて
こちらの病院に最初の検査を受けに
来た時のものです。それは私の目に、
まるで祈っているように見えました。